私見偏見独白

No.000-64 慣習法

韓国の法廷で, 従軍慰安婦の問題で日本政府を被告とした裁判の判決がだされました。
日本政府は国家が訴訟の被告となることはないという国際慣習法を理由に,
裁判自体を黙殺してきました。
訴えの内容は別にして, この国際慣習法は当然のことで, 国家そのものを相手とした訴訟が外国で起こされては外交がなりたちません。
この国際慣習法ですが, 慣習法とあるように条約や国家間の取り決めで明文化されているものではありません。
誰もが当然と見なすことはいちいち明文化しないということですね。
もしも盗みをする人間が一人もいなければ窃盗を禁止する法律はつくられないでしょう。
そう, 盗人がいるからそれを罰する法律が作られるのです。

国際法だけではなく, 国内法においても同様です。
ありとあらゆる事柄をあらかじめ明文化することは不可能です。
慣習法は慣習あるいは前例として確立されています。

慣習法に違反しているとして韓国の判決を黙殺している政府ですが, その慣習法をあからさまに破っているのが前の安部内閣, 現菅内閣です。
日本学術会議の会員の任命については学術会議の推薦を総理大臣が"形式的に"承認することは, 慣習として確立されていました。
中曽根内閣時代の中曽根首相や官僚の国会における答弁で何度も確認され, 以降は例外なく"形式的に"承認されてきました。
これを菅首相は否定して推薦された学者の一部を承認しなかったのです。
安部内閣時代の安保法案に対して反対だったからと推測されていますが, 国会などでなぜ承認しないのかを問われても, 人事に関することを理由に頑として答えていません。
さらに, これまでの慣習を変更したのかという点も, 中曽根内閣以来変更はないと強弁しています。
慣習や前例の全否定です。
慣習を盾に韓国での裁判を黙殺しているのに・・・

トランプ大統領の任期がまもなく終了します。
本人と狂信的支持者は認めていないようですが, 選挙結果はもちろんのこと, 不正選挙だったとの訴えもすべて退けられ,
20日にはバイデン大統領が誕生する見込みです。
独裁者の考えることは洋の東西を問わず同じようで, トランプ大統領も慣習や前例を無視することを多々行っています。
選挙後の敗北宣言。
これまでの大統領選挙では選挙後に敗者が敗北宣言をして, 国の分断を防ぐために勝者への協力を呼びかけるのが慣例でした。
最高裁判事の指名。
最高裁判事の指名が必要になったときに大統領の任期が終了間際であれば 指名は次期大統領にまかせるのが慣例でした。
死刑の実施。
独裁者は死刑が大好きです。
死刑囚の死刑実施は大統領の任期終了間際には行わないのが慣例でした。
外交政策の変更。
つい最近になってキューバに対するテロ支援国家の再指定をしました。
これは慣例にまではなっていないかもしれませんが, 任期終了間近の場合は 外交的政策の変更などで重要な政策変更は行わないのが普通です。
もう次期バイデン政権にトラブルの種を残すための嫌がらせとしか思えません。

民主主義においては適正な手続きが重視されます。
その手続きの多くは慣習と前例に依存しています。
官僚が前例主義と呼ばれるのはその所以です。
慣習や前例を変更するには新しい法律を作ったり, 国会などでの話し合いが必要です。
これを軽視あるいは無視する政府は民主主義でも法治主義でもなく, 前近代的な人治主義の政府です。
かつて国連で日本の刑事取り調べの状況がまるで中世のようだと批難されたとき,
国内でもネット上で「中世ジャップランド」などと自虐的に表現されましたが,
今や政治全体が「中世ジャップランド」になってしまったかのようです。