情報技術の進歩は素晴らしい。
「嘘も100回言えば真実になる」はナチスの宣伝相ゲッベルスの言葉として有名ですが,
元ネタはゲッベルスではないそうです。
そして元ネタはどうであれ, 為政者たちはこの嘘の効用を十二分に活用してきたのは事実でしょう。
嘘を100回繰り返すためにはマスメディアの力を必要とします。その点においてナチスは優れていたのです。
そして安部内閣下における麻生大臣の「ナチスに学ぶ」発言が象徴するように,
近年の自民党政権は新聞TVはもちろんですが,
ネットへの対策も十分にとってきたようです。
その努力(?)とネットの普及によって,
今や嘘は1回で真実に変えることができるようになってしまいました。
しかもマスコミを通じて大々的に打ち上げる必要すらなく,
個人のブログやツイッターでの一言,
内輪の会合での一言で十分です。
あとはネットサポーターやらネットウヨやらが拡散してくれます。
さらにはご用評論家などの著名な人物がTVやネットで拡散することで,
一般人まで嘘を信用するようになります。
それが嘘であることが検証され, 報道されても拡散は止まりません。
今まさにその状態にあるのが学術会議に関する話題です。
学術会議法に基づく会員は推薦によって決まり,
任命権者である首相の介入する権限はないということは,
新会員は会員の選挙で決めていたものを推薦者を首相が任命する形に法律を制定したとき,
国会で繰り返し確認されたことです。
この法解釈を変更していないと主張しているのですから,
今回の6人の任命拒否は明白に違法な行為と言えます。
その違法がまかり通ってしまうことが問題ですが,
政府への批判が止まらないとみるや,
学術会議そのものへのネガティブキャンペーンを展開し,
問題のすり替えを始めたのです。
曰く
・軍事研究に協力しないといいつつ, 中国の軍事研究に協力している。
・軍事研究をうけいれようとした北大の総長室に押しかけて圧力を加え, 受け入れを辞退させた。
・軍事研究を禁止することで, 学術会議こそ学問の自由を侵害している。
・学術会議会員を務めると学士院会員のなって終世250万円の年金がもらえる。
・学術会議と類似の他国の学術団体は(中国やロシアを除けば)国の税金をもらってはいない。
・この10年間一度も国への答申をせず役割を果たしていない。
などなど・・・
上から順に:
中国の軍事研究に協力しているという話は自民党の甘利大臣のブログですが,
すでにブログは修正され, 「間接的に協力しているように映ります」と修正され,
学術会議はもちろん加藤官房長官も否定しています。
北大総長室に押しかけたという元ネタは,
国家基本問題研究所(国基研)理事の奈良林直・北海道大名誉教授が国基研のサイトに書いた記事ですが,
国基研がそのような事実はなかったと修正しています。
軍事研究の否定が学問の自由を侵害しているという話は,
学問の自由を誤って解釈しています。学問の自由には研究成果を公表する自由が含まれますが,
軍事研究は多くの場合成果に関して守秘義務が課せられます。これこそ学問の自由への侵害です。
年金の話はフジTVの上席解説委員がTV番組で述べたことですが,
すぐに学士院によって否定されました。
他国では税金を入れていないという話は学術会議の民営化論として多くの著名人が発言しています。
橋下徹元大阪府知事はアメリカ・イギリスの学者団体に税金は投入されていないようだとツイートしましたが,
その後リツイートで説明不足だったとして修正しています。
実際, アメリカのNASには70億円ほどが,
イギリスの王立協会にも同程度が補助金として支出されています。
10年間答申を出していないというのは事実ですが,
答申は政府からの諮問に対して行われるものです。単に政府が10年間諮問をしなかっただけのことです。
自主的に出せる政府への提言などは山ほど出しています。
このように嘘あるいはミスリードと確認された情報ですが,
今もネット上で拡散され続けているのです。
ゲッペルスが生きていたら夢のような国だと思うことでしょう。
1995年, インターネットが一般人にも使えるようになったとき小生は思いました。
為政者と富裕層に独占されていた情報を広く発信する手段を一般人も手に入れることができるようになったと。
しかし甘すぎる考えでした。支配層は批判者の発信を上回る莫大な量の情報を発信し始めたのです。
真実の情報はそれを圧倒する嘘の情報に飲み込まれてしまっています。
これは情報を統制するよりもずっと狡猾で, しかも効果的な方法です。
ナチスの手法 2.0 といったところでしょうか。